僕は君に夏をあげたかった。
やがて一週間ほどして、熱は下がり、だるさは残るものの、ほぼ体調が戻ったころのこと。


おじいちゃんの家にお客さんがやってきた。

私宛てのお客さんだった。


あずささんと同じくらいの歳の女の人。

長い髪の、きれいだけれど、どこか儚い雰囲気の人。

顔を見て、すぐに誰かわかった。

彼女はとてもよく似ていたから。

佐久良くんに、よく似ていたから。


「……はじめまして。佐久良夏の母親です」


彼女は、予想通りの答えの自己紹介をした。


「松岡麻衣子さん………夏と仲良くしてくださって、ありがとうございました」


そう言ってにっこり笑う佐久良くんのお母さん。

落ち着いてはいたけれど、頬はげっそりとやつれ、目の辺りは泣きつかれたように腫れていた。


「………い、いえ………私こそ……私こそありがとうございました。私……たくさん佐久良くんに助けてもらいました。佐久良くんに……救われました」

「それは……夏も同じです。生まれつき身体が弱くて、どこか諦めたように生きていた夏が、ここ最近、本当に幸せそうでした。

亡くなるまでの、ほんの数週間だけだったけど、あのこは今までのどの瞬間よりも、はっきりと生きていました」
< 141 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop