僕は君に夏をあげたかった。
佐久良くんのお母さんは、小さく鼻をすする。


「松岡さんにまた会いに行くって……あなたに絵を見てもらうって………そう言っていたあのこは、本当に前向きで……生きようと一生懸命でした。

それは叶いませんでしたが、あのこの人生はあまりに短かったかもしれませんが。あのこはあのとき、決して不幸ではなかったと思います。

だって、最後の最後まであのこは生きるのを諦めようとしなかったから。最後まで生きていけると信じていたから………だから……あのこは……幸せだった……と………思いま………す」


涙をこらえるようにしながら、それでも佐久良くんのお母さんは私を真っ直ぐ見て話してくれた。

佐久良くんの最後の言葉をひとつ残らず伝えようとするかのように。

だから私もその視線を正面から受け、泣くことなく聞き続けた。

お母さんが泣いていないのに、私がここで泣けないと思ったから。


「……松岡さん。ありがとうございました。あのこに、恋と希望を教えてくれて、ありがとう………」


佐久良くんのお母さんは、その言葉を最後に深く深く頭を下げた。

そして……


「……それと、これを。最後に夏が描いていた絵です。もし良かったら、あのこの形見として、受け取ってください」


そう言って、ふろしきに包まれたキャンバスを差し出した。
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