僕は君に夏をあげたかった。
「………っ、佐久良……く………っ」


佐久良くんの絵。

今まで未完成のものを見たことがなかった。

中学での部活でも。

突然の転校で学校を去るときにでも。

絵が完成してないことなんてなかった。


なにより佐久良くんが未完成のものを発表するのを嫌がったから。

でも、今、この絵は完成とは程遠い。

私の姿が描かれてはいるけれど、色もなく、表情もよくわからない。

佐久良くんがこれからこの絵にどんな色を落とし、どんな絵を完成させるつもりだったのか。

全くわからなかった。


ただ、ひとつだけ。

彼が最後までこの絵の完成を諦めなかったことだけはわかる。

病気に苦しむ体で、おそらく治療の副作用によって自由のきかない腕で

それでも絵筆を離さなかったことだけは、乱れる筆跡からも想像できた。


でも、それでも、完成できなかった。

諦めなくて、最後まで描き続けても終わらなかった。


突然、本当に中途半端なところで、止まらなくてはいけなかった。

大好きな絵を、やめないといけなかった。







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