僕は君に夏をあげたかった。
『ときどきは思い出して生きようね。

それは一緒に生きるということだから』


あのとき、あずささんはどんな思いでそう言ったのだろうか。



「………私………
今年のお盆はお墓参りできなかったな」

「そ、そうね。麻衣ちゃんそのころ、熱でねていたものね。残念だけど仕方ないわよ」

「今度行こうかな。お母さんのお墓参り」

「うん、いいと思うわよ。麻衣ちゃんのお母さん喜ぶわ」

「………うん。あの、ねえ、一緒にいく?

その………おかあさんも」

「……え?」

「だから、その、おかあさんもお墓参り一緒に行こう?」

「麻衣ちゃん……….」


あずささん……おかあさんの目にじわりと涙が浮かんだ。

でもおかあさんはそれをあわててぬぐって、すぐににっこりと笑う。


「そうね、わたしも一緒に行きたいわ。いいかしら」

「…私から誘ったんだから、いいに決まってるじゃん」

「それもそうね。ふふ……」


私とおかあさんは顔を見合わせて笑う。

電車の車内に、ささやかな笑い声が響いた。



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