僕は君に夏をあげたかった。
返す言葉を失った。


―――療養ってことは、病気を患っているわけで。

程度がどれくらいかはわからないけれど、学校に普通に通うのが無理なのは間違いないだろう。


『夏休みみたいなもの』


そう言った佐久良くんの微笑みが思い出される。

夏の日差しの中、溶けるように儚げだった彼の姿に、胸の奥かにぶく痛んだ。



(……佐久良くん、どこが悪いんだろう)


確か、中学のときから病弱だとは聞いていた。

体育はよく見学していたし、欠席も他の生徒に比べると多かったと思う。

それにあの痩身と色白な肌。

見るからに儚げな雰囲気は、見た目で判断するのもどうかと思うが、危うげな頼りなさがあった。

でも、その外見に反し、佐久良くんは明るく快活だったので、私も含め同級生はあまり彼をそういうふうには扱っていなかった気がする。

少し欠席は多いけど、頼りなく感じるときもあるけれど

他のみんなと何も変わらない明るいクラスメイト。

きっとそんな認識だった。


だから、今……とても動揺している。


佐久良くんがそれほど体調を悪くしているということに。



おじいちゃんは黙ってしまった私に、困ったように頭をかいた。

佐久良くんのことを話したのを、少し後悔しているのかもしれない。



「……まあ、病気って言うても、麻衣ちゃんが思ってるほど重くないかもしれへんよ」


「そう……かな」


「それより、夏くんと会ったとき、そんなふうに暗くなったり、変に気を使ったりはせん方がいいよ。

それが……何より夏くんに良くない気がする」


「………うん」


おじいちゃんの言葉に素直にうなずき、私は壁にかけられている佐久良くんから借りた帽子に目をやった。
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