僕は君に夏をあげたかった。
(……体調がいいわけじゃないのに、私に帽子を貸してくれたのか……)


あの暑い日射しの中、療養中の彼の方がきっと帽子を必要としていただろうに。

…佐久良くん。

夏の光を全身に受け、明るく笑う佐久良くんの姿が思い浮かぶ。


―――また絶対会えるから、そのとき返してよ。


彼はそう言っていた。


(……あの砂浜へ行けば、また会える……?)


例えば、…明日も会えるだろうか。

佐久良くんもまた来てくれるだろうか。

少しは、私に会える可能性を考えてくれているだろうか。


「……明日も、海に行ってみようかな……」


知らず呟いた私の言葉に、おじいちゃんは笑みを深くする。


「明日と言わず、毎日でも行ったらええ。麻衣ちゃん、子供のときは、いっつもあそこで泳いどったからなあ」

「そう……だったかな。
…でも、今は遊泳禁止なんだよね」

「ああ。数年前から海水浴客が増えたんやけど、マナー悪いのも多くてな。勝手に砂浜でバーベキューやったやつらがおって、そのせいでぼや騒ぎが起きたんや。そんで、安全のために遊泳禁止になった。

…それに、あの海は神聖なものやから。汚されるのはかなわん」

「神聖…?」


意外な言葉に首を傾げると、おじいちゃんは遠くを見るような目をした。
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