僕は君に夏をあげたかった。
* * *
次の日も私は海へ向かった。
もちろん、佐久良くんに借りた帽子を持って。
午前中はおじいちゃんを手伝って家事をしたり、お使いに出たりしていたので、午後から出掛けたのだが、それを激しく後悔することになった。
すっかり高くなった日射しは暴力的とも言えるほどで、ジリジリと手足が焼けつくように痛む。
ただ歩くだけで汗が流れ、髪やシャツが肌に貼り付く感覚がなんとも気持ち悪かった。
…それでも
「……わっ」
昨日と同じように堤防を越え砂浜に出ると、潮風が一気に身体の熱を冷ましてくれる。
もちろん灼熱の日射しも、うだる暑さも変わらないのだが、潮の香りの風はひんやり冷たく、この場所だけ気温が数度下がった気がした。
眼前には青く透明な海。
光る水平線が遠くかすんで見える。
潮の匂いも、波の音も、キラキラひかるブルーも。全てが海の圧倒的な存在感を鮮やかに彩っていた。
(……きれいだな)
そう素直に思う。
相変わらずの暑さも、今は気にならなかった。
(……そうだ、佐久良くん)
目的を思いだし辺りを見渡すも、誰の姿もない。
もっとも暑い時間帯に来てしまったせいか、釣り人ひとりいないのだ。
…どうやら、完全に空回り。
よく考えればハッキリした約束などしていないのに、心のどこかできっと会えると楽観視していた私は、肩を落とした。
(……仕方ないか。せっかくだから少し散歩して帰ろ)
昨日の失敗を生かし、足元はビーチサンダル。
底の薄いそれでペタペタと波打ち際に寄っていった。