僕は君に夏をあげたかった。
白い泡をたて波が打ち寄せ、離れていく。

波の引いたあと、残された石や貝がらがピカピカ輝いている。

私はゆっくりかがんで、特に美しい貝がらを1つ手に取った。

白い……小さな二枚貝。

波に削られたのか、なめらかに丸みを帯びていた。

よく見ると、足元の小石もつるんと丸い。

波が何度も何度も打ち寄せ、こうして丸く削っていったのか。

なぜだか、キラキラ輝く白い波が少し恐ろしく見えた。


「……ん」


波打ち際を更に歩いて行くと、明らかに石や貝とは違う光を見つけた。

丸々のそれは、ひときわ強く光を反射している。

…拾い上げると、透明なビー玉。波にぬれ、滴をはじく。

うっすら青い色を帯び、海を映し出していた。


「……きれい」


光に透かしてみる。

するとわずかだが虹が見えた。

ビー玉にまとわりつく滴ひとつひとつが、虹をまとう。

こんなもの、子供のおもちゃなのに。

私はそのきらめきから目をそらせなかった。


…だからだろうか。

近づいてきた足音に気づかなかったのは。


「……ずっとそこにいると、暑さにやられるよ」

「え?」

「でも、今日は帽子をかぶってる。…よくできました」

「さ、佐久良くん…!」


いつの間に来ていたのか。

佐久良くんが私のすぐそばに立っていた。
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