僕は君に夏をあげたかった。
佐久良くんは、私に貸してくれたのとは違う、麦わら帽子をかぶっている。

その帽子の影から、にっこり笑顔をのぞかせた。


「…こんにちは、松岡さん。すごい汗だよ、大丈夫?」

「え、あ……。風が涼しいから、あんまり気にならなかった……」

「駄目だよ、熱中症になったら大変。…こっちにおいで」


そう言って、私を波打ち際から砂浜の方へと誘う。

そんな彼の両手には、汗をかいたガラスのビンが二本握られていた。


「一緒に飲もう。ラムネ、近くの店で買ってきたんだ」

「え? …もしかして、私の分も買ってくれたの?」

「うん。海に来たら、松岡さんが波打ち際で遊んでるの見えたから」

「………あ、ありがとう」


ぼーっと歩いているのを見られたのか。

ちょっと恥ずかしい。


…でも


「……ほら、冷たくて美味しいよ」


そう言って、ラムネの瓶を渡してくれる佐久良くん。

私を気遣ってくれたんだと思うと、その優しさが嬉かった。
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