僕は君に夏をあげたかった。
佐久良くんが突然吹き出す。

クスクスと可笑しそうに笑った。


「…な、なに。佐久良くん…私…なにか変だった?」

「いや、違うけど。変わってないなって…」

「え…」

「松岡さん、中学のときも、よくそんな風に考え事してたよ」


佐久良くんは懐かしそうに目を細め、水平線へと視線を向けた。


「なんで今日の夕焼けはいつもより赤いんだろう、とか。なんで、チューリップって色んな色が咲くんだろう、とか。

……あと、なんでミカンってもんだら甘くなるんだろう、とか」


最後の言葉はほとんど笑い声。

口元をおさえ、肩を震わせている。


(…なんか。私、すごくバカみたいじゃない?)


恥ずかしさがこみあげてきて、顔がほてっていく。

夏の暑さとは違う熱さ……。

まだ笑い続ける佐久良くんの顔がちゃんと見れない。


私は彼から少し顔をそらすようにうつむき、残ったラムネを無言で飲んだ。

さっきよりも炭酸がのどに痛い。


「……あれ?松岡さん、どうしたの」

「な、なにが」

「なんか機嫌悪くなってない?」

「べ、別にっ…!」


飲み干したラムネの瓶を、砂浜につきさす勢いでドンと立てる。

中のビー玉はそれでもきれいに虹を映していた。



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