僕は君に夏をあげたかった。
……佐久良くん。
中学のとき、好きだった人。
その儚い美しさも、柔らかい物腰も、キャンバスに向かう真剣な眼差しも
すべて私にとっては憧れで、見つめているだけで胸がきゅんと苦しくなった。
…そんな佐久良くんが私のことを…。
『好き』や『いいな』というのが、私が彼に感じていたような恋愛感情じゃないとしても、少なくとも好意的に思ってくれていたことは確かで
それはとても嬉しいことのはずなのに。
心は高鳴るどころか、すとんと暗く落ち込んでいった。
「松岡さん……?」
「……」
急に黙った私を、佐久良くんが訝るように見つめる。
きっと暗い表情をしてしまっていたのだろう。
佐久良くんの眉尻が悲しげに下がった。
「なんか、……ごめん。こんなこと突然言われても、そりゃ……困るよな」
「……違う。その……佐久良くんが悪いわけじゃなくて……」
「………」
「わ、私の問題っていうか……」
「え?」
私は戸惑う佐久良くんを真っ直ぐ見据え……すぐに目をそらす。
「……佐久良くんは、私のこと……本当に、変わってないって思ってくれているの?」
「…え?それってどういう……」
「……中学のときのまま……あの頃の私だって……」
「……松岡さん?」
「私っ、は……。私は……変わってなくなんてない……」
ぎゅっと、砂を手で握る。
さらさらのそれは手応えなく指のすき間から流れ落ちていく。
まるで留めておけない時間の流れみたいに。
「変わっちゃったよ、私……。ぜんぶ………」