僕は君に夏をあげたかった。
「………」


佐久良くんが戸惑ったように私を見ている。

私の態度や言葉に、どう反応していいのかわからないみたいだ。


……当たり前だ。

さっきまで普通に話していたのに、急に機嫌を悪くして。

しかも佐久良くんは別に酷いことを言ったわけではない。

それどころか、昔の私を好意的に話してくれていたのに。


でも、私には……それが何よりつらい。

だってもう何もないから。

あのときの私と同じもの。

私は変わったしまったから。


家族も、友達も、居場所も、ぜんぶぜんぶ……。



「……松岡さん?」

「…っ」

「泣いているの?」

「………!」


佐久良くんにそう言われ、自分の頬に涙が伝っていることに気づいた。

知らぬ間に、ぽろぽろ溢れる滴たち。

鼻の奥がつんと痛んだ。


「……や、やだ。ごめん……私……っ」


あわてて涙をぬぐうものの、あとからあとから流れてきて上手くいかない。

佐久良くんの顔はますます戸惑いの色が濃くなってきて

私はそれがいたたまれない。


「……わ、私……今日は帰るね。変なこと言ってごめん。それじゃあ……っ」

「待って!松岡さん」


走り去ろうとした私の腕を、佐久良くんがつかんだ。
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