僕は君に夏をあげたかった。
海辺に着くと、すでに佐久良くんが待っていた。

麦わら帽子に、白いシャツ。いつもと変わらないスタイル。

テトラポットに腰掛け、海を見ながらスケッチをしている。

これから絵を描くというのに、…本当に描くことが好きなんだな。

その姿にかつての自分を見つけた気がして、胸がチリリと痛んだ。


「……あ、松岡さん」


佐久良くんは、私が近づくとすぐに気づいてくれた。

そして嬉しそうな笑顔を浮かべ、テトラポットをおりてくる。


「……おはよう、松岡さん」

「おはよう。早いね。待たせちゃってごめんなさい」

「大丈夫だよ。俺が勝手に早く来たんだ。朝の海を描きたくて……」


佐久良くんはどこか満足げに笑った。

どうやらすでに何枚かスケッチし終えているらしい。


「……ふーん。ね、ちょっと見てもいい?」


眼前に広がるキラキラした海。

彼がこれをどんな風に描き写したのか興味がある。

でも佐久良くんはスケッチブックを閉じて、笑顔のままハッキリ首を振った。


「……駄目だよ。恥ずかしいから」

「え、でも、部活ではスケッチ見せあったりしたじゃない」

「…それは…部活のときは見られるのが前提みたいだったから平気なんだよ。
でも、これは……俺の日記みたいなもんだから」


そう言った佐久良くんは、伏し目がちで本当に恥ずかしそうだった。

いつも微笑んでいることが多い彼のそんな姿は新鮮で、なんだか可愛い。

私はその表情に免じて、スケッチを見せてもらうのを諦めることにした。
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