僕は君に夏をあげたかった。
ーーーそれから1時間くらいだろうか。
佐久良くんはテトラポットに腰掛け、私を描いていた。
その間私は波打ち際を歩いたり、足だけ海に入って遊んだり、貝や石を拾ったり。
彼の言葉通り、自由に動いて過ごさせてもらった。
常に感じる佐久良くんの真っ直ぐな視線はくすぐったかったけれど
モデルは思っていたほど緊張するものではなかったし、絵に拘わる自分を驚くほどすんなり受け入れられた。
それは、さっきの佐久良くんの言葉のおかげかもしれない。
「……ふう」
とは言え、1時間も波打ち際にいるとさすがに暑くて仕方ない。
太陽も始めのころに比べるとずいぶん高くなり、明らかに気温があがってきているのを感じる。
この辺りで休憩をした方がいいだろうか。
そう思い佐久良くんの様子を伺うと、この暑さを全く気にもしていないように、ひたすら手を動かしている。
さらさらと休むことなくクロッキー帳に私が描かれているのが、遠目からでもわかった。
すごい集中力だ。
ただ絵を描くというより、何か気力のようなものを注ぎ込んでいるようにも感じた。
「……さ、佐久良くん」
少し、声をかけるのがはばかられる。
だけどこのまま休憩なしに描き続けるのは、佐久良くんの身体にもよくないはずだ。
彼は療養でこの町にいるのだし。
「……佐久良くん!そろそろ休もう」
控えめに話しかけても気づいてくれなかったので、やや声のボリュームをあげる。
そこでようやく彼は手を止めた。