僕は君に夏をあげたかった。
(……あ、でも)


しばらくの間、見とれていた私だがあることに気づく。

クロッキー帳の中の私。絵の私。

表情がどれも暗い。

うつむいて、目を伏せているものばかり。

ざっと描かれたデッサン画ですら、それがハッキリわかった。

佐久良くんの絵が生々しいから、よけいに私の陰うつさが伝わってくる。


……これが、今の私。

私はこんな顔で生きている。



「……松岡さん、気に入らなかった?」


何かを感じたのか、佐久良くんが心配そうに聞いてきた。


「……あ、ううん。違うの。佐久良くんの絵はすごいよ。

でも、……私ってこんな感じなんだなって……」


そんな曖昧な言いまわしでも、佐久良くんは察してくれたようだ。

小さく肩をすくめ、表情をいつもより優しく柔らかくくずす。

機嫌を損ねた幼い子供に笑いかけるように。


「……そうだね。今の松岡さんはいつもこんな顔している」

「……」

「…でも俺は……そんな松岡さんもいいと思うよ」

「…そんなこと……ないよ」


だって私は、嫌いだもの。

今の私も、私の回りの色々なものも。


「……でも……ありがとう、佐久良くん」


それでも、彼の優しさが嬉しかったから

きっと暗い表情のまま、佐久良くんにお礼を言う。


佐久良くんは相変わらずの柔らかい笑みを浮かべたまま、うなずいた。


「……また、これからも松岡さんを描いてもいい?」


今度は私がうなずく番だった。


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