僕は君に夏をあげたかった。
「……それじゃ、今日はもう絵はおしまいにしよう」
佐久良くんが荷物をまとめて立ち上がる。
「いいの?」
「うん。これからどんどん暑くなってくるし。そうしたら、集中できなくなっちゃうしね。それより商店街の方に行って、何か冷たいもの食べようか」
どれだけ暑くても佐久良くんの集中力は途切れないと思うけど…
冷たいものを食べるのは、正直言って賛成だ。
私は二つ返事でOKした。
***
堤防をおりて海を出てから、おじいちゃんの家と反対の道を行く。
するとすぐに小さな商店街が見えてきた。
商店街と言っても、きちんと開いている店はほとんどない。
しかもこの暑さのせいか、営業しているであろう店も、店の人が商品を出したまま奥に引っ込んでいる。
泥棒にあわないか心配になるが、きっとこの町ではこれがふつうなのだろう。
私と佐久良くんは、商店街の中程にある駄菓子屋でアイスを買うことにした。
私はバニラバー。佐久良くんはスイカの形の棒アイス。
店の奥に呼び掛けると、店主らしきおばあさんがゆっくりと出てきた。
「おや、夏くん。いらっしゃい。あら、そっちは見かけへん子やな」
おばあさんは私を見て、首をかしげる。
「あ、私は……」
「あー、もしかして哲郎さんとこのお孫さんか?今、泊まりにきとるって聞いたわ」
哲郎さん……おじいちゃんの名前だ。
本当に町中が知り合いで、情報の伝達も早いらしい。