僕は君に夏をあげたかった。
「…そうです。松岡麻衣子っていいます」

「そうそう、麻衣ちゃんや!思い出した!大きなったなー。小ちゃいとき、この町に遊びに来てたん覚えとる?」

「……あ、す、少しだけ」


といっても、この店もおばあさんも覚えていないけれど。

おばあさんの人のよさそうな笑顔を見ながら、少しだけ申し訳ない気持ちになった。


「……それにしても、夏くんもやるやないの。早速、麻衣ちゃんと仲良くなったん?」


おばあさんのからかうような調子に、佐久良くんは苦笑いを浮かべる。


「もともと友達だったんだよ。俺たち、東京で同じ中学に通ってたんだ。俺が途中で引っ越しで、それっきりだったけど」

「あらー。ほいだら、偶然この町で再会したってことか。すごいな、この田舎でそんなことあるやなんて」

「……はは。確かにすごい偶然だよね。あ、おばあちゃん、アイスちょうだい」


佐久良くんはこの店の常連なのか、かなり親しくおばあさんと話している。

もっとも、それは彼の人当たりのよい性格からかもしれないけれど。


私たちは、それぞれ好きなアイスを選び、おばあさんにお金を渡す。

優しいおばあさんは、小さなお菓子をオマケにつけてくれた。


「……まあ、でも良かったな、2人とも。ここは海しかない田舎やけど、友達おるなら退屈せえへんな」


そしてうちのおじいちゃんみたいなことを言う。


「それに夏くん、最近体調いいみたいやね。こうして外に出れるようになって良かったな…」


(……え?)
< 34 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop