僕は君に夏をあげたかった。
佐久良くん…

外に出られなかったくらい体調を崩していたの…?

そっと彼の様子を伺うと、けろりとした顔をしている。

確かに顔色はあまりいいとは思わないけれど、それほど具合が悪そうには見えない。

いや、療養しているのだから健康なわけはないのだけれど。

……でも、もしかしたら、こうしているのも無理をさせているんじゃ

おじいちゃんには、佐久良くんの前であまり心配そうな顔をしてはいけないと言われているけど

不安があふれ、顔がひきつっていくのを感じた。



「……このまんま、身体がよくなったらええなあ。いつまでもこの町におるのはつまらんやろし……」

「ーーーおばあちゃん」


しんみりと話を続けるおばあちゃんを、佐久良くんの落ち着いた声が遮る。


「……ねえ、そんなことより、今日はシジミ来た?」

「え、……ああー、まだやな。そろそろ昼ごはんやから、姿を見せると思うけど」

「それなら俺がごはんをあげるよ。缶詰ちょうだい」

「そうか?ほいだら夏くんに頼もうかな」


おばあさんは何かを取りに、店の奥へと入っていった。

佐久良くんのあらかさまな話題そらしに気づいてないのか、それとも気づいて何も言わないのか。

少なくとも……彼が自分の体調について触れてほしくないと思っているのは私にもわかった。

だから私もとりあえず忘れることにする。

ひきつった顔をひっこめ、出来る限り明るく話しかけた。
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