僕は君に夏をあげたかった。
「……佐久良くん、どうしようか」

「んー、俺は別に、いつも通り描いてもいいけど」

「……!わ、私は無理……っかも……」


佐久良くんは絵に集中すると周囲が気にならなくなる人だから、そう思うのだろうけど

私はさすがに子供が駆け回る中で絵のモデルなんてきつい。

集中できる気がしないし、何より子供たちの好奇の視線が気になって仕方ない。

今でもひそひそ『見ろや、デートや』『カップルやカップル』なんて、得意気にウワサしているのが聞こえてきているのだ。

この子たちの前で絵を描いてもらったりしたら何と言われるか。


「……きょ、今日はやめない?絵を描くにしても、その、場所を変えて……」


私の様子に何かを察したのか、佐久良くんが吹き出す。


「わかった。いいよ。じゃあ、今日はどっか違うとこに行こうか」

「う、うん。……と言っても、この町何があるのかな」

「うーん……」


ーーー何もない。


おそらく私たち2人の心に同時に浮かんだ答えは、そんな失礼なものだった。


「ははっ、は……」
「あはは……」


それをごまかすため、ひきつりながら笑い合う。
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