僕は君に夏をあげたかった。
「……ま、まあ。適当でいっか。ほら、商店街とかさ。今日もシジミにごはんあげるでしょ?」

「うん。そうだね。……あれ?」


佐久良くんが堤防の階段の方を見て、小さく声をあげる。


「………シジミ?」


そして驚いたようにつぶやいた。

私も彼の視線を追う。

すると確かに見覚えのある猫が、少しおぼつかない足取りで堤防から降りてくるところだった。


「……わわ、シジミ。どうしてここに?もしかして海が好きなの?」

「いや、今までこっちの方に来たことなんかなかったけど……」


佐久良くんが堤防の方へと近づくと、シジミは(多分)嬉しそうに彼へと寄っていく。

いつもより甘えたように鳴くと、佐久良くんの足にまとわりつくように体を擦りよせた。


「……なんかすごく甘えているね」

「うん……変だな」


佐久良くんは少しだけ暗い顔でシジミの頭を撫でた。

私もシジミの乾いた毛並みに出来る限り優しく触れる。

心なしかシジミの毛はいつもより柔らかく弱々しい気がした。


「シジミ、どうしたの?」


佐久良くんが尋ねるも、シジミは(当たり前だが)何も答えない。

ただ彼に撫でられることが嬉しいというように、ゴロゴロのどを鳴らしていた。
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