僕は君に夏をあげたかった。
「……麻衣ちゃん……!?」

「……!」


でも、その手は突然の呼び声にピタリと止まる。

私を呼ぶ、穏やかな女性の声。

誰の声かは知っている。

全身に一気に緊張が走るのがわかった。


「え?」


佐久良くんが固まった私の代わりに声の方を振り返る。

それから遠慮ぎみに誰か呼んでいるよ、と私を促す。

そう言われれば無視するわけにもいかず、私は緊張を全面に出した表情のまま振り向いた。

立っていたのは、日傘をさした女の人。

長い髪を後ろで1つにまとめた上品な雰囲気の人。

私と目が合うとぱっと笑顔を見せた。


「やっぱり…!麻衣ちゃんっ、……あの、元気だった?」

「…………」

「……今ね、こっちに着いたのよ。おじいさんから麻衣ちゃんは海に行っているって聞いて見にきたんだけど……会えて良かったわ」

「…………何しにきたの?」


自分でも引くくらい冷たい声が出た。

隣の佐久良くんがビックリしたように目を見開く。


「……あ、えーと。麻衣ちゃんの高校、夏休みになったの。それでプリントとか宿題とかを持ってきたのよ」

「郵送すればいいじゃん」

「……そうね。でも、クラスの友達のお手紙とかも入っていたから、なるべく早く届けてあげたくて」

「友達……?」


自分の顔がひきつるのがわかる。

おさえられない苛立ちがどんどん沸き上がってきた。
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