僕は君に夏をあげたかった。
「……麻衣ちゃん、ごめんなさいね。わたし、もう帰るから。宿題はお手紙はおじいさんに預けてあるからね」

「……」

「それじゃあね、麻衣ちゃん。身体に気を付けてね。また連絡するから……」

「………しなくていい」

「…………」


悲しそうに目をふせて、彼女は去っていった。

残された私たちの空気は重い。

佐久良くんの顔からはいつもの笑顔は完全に消えていて、私を鋭い目で見つめている。

でもそれは私を責めるというより、心配しているようだった。


「……佐久良くん、ごめんなさい」

「どうして謝るの?」

「だって、その……私、怒鳴ったりして、いやな思いしたよね」

「してないよ。俺はいやな思いなんてしてない。
でも、松岡さんはもっと他に謝るべき人がいるかもしれないな…」

「それは……」

「………今の女の人、誰なのか聞いてもいい?」

「………」


なー、とそのまで黙っていたシジミが鳴き声をあげる。

まるできちんと答えろと急かしているみたいだった。

私は観念して口を開く。


「……再婚相手、お父さんの」

「……」

「あの人が来てから嫌なことばっかり」
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