僕は君に夏をあげたかった。
「……なんで謝るの、お父さん」


私は精一杯の笑顔でそう言った。


「すごいじゃん、支社長なんて。良かったね。
私なら大丈夫だよ。大阪行ったことないから、むしろ楽しみ……!」

「麻衣子……」

「大阪ってUSJあるんでしょ。行ってみたかったの。ね、引っ越したら一緒に行こうよ」

「……ああ。そうだな」


お父さんの顔が柔らかくゆるんだ。


「高校も向こうにきっといいとこあるだろうし。今から調べて、勉強頑張るよ。ね、大阪行っても一緒に頑張ろうね」

「…………ああ」


深くうなずき、小さく笑顔を浮かべるお父さん。

その様子に私は胸を撫で下ろす。

本当は友達と一緒の高校に通えないことも、遠い場所に引っ越すことも不安でたまらなかったけれど

お父さんが私のせいで悲しむのが何よりつらいから、これで良かったのだ。


「………大阪でも友達出来るかな。ちょっと言葉が違ったりするだろうし、ドキドキしちゃうよ」

「大丈夫だよ。麻衣子は明るい子だ。きっといい友達ができる」

「えへへ、そうかな」

「ああ……。それにな、今までみたいに、お前が家事に時間を取られることもなくなるから、友達とたくさん遊べるようになるよ」

「………え?それってどういうこと?」


お父さんは二度目の『実は』を口にした。

さっきよりも言いづらそうに。だけどさっきよりも少し嬉しそうに。


「実は、……再婚を考えている人がいる。
前から付き合っていた人なんだが、今回の転勤を機に籍を入れて、一緒に大阪に来てもらうつもりなんだ」

「……………え」
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