僕は君に夏をあげたかった。
今度こそ。

私は頭が真っ白になり絶句した。

ぐわん、ぐわん、と頭痛のような耳鳴りがする。


ぐらぐら揺れる頭の中で、今までの思い出がめぐっていく。


「…………」

「急な話で驚いただろう?今度、相手の人を紹介するよ。
父さんの会社で以前働いていた人で、優しい人なんだ。きっと、麻衣子と仲良くやれる」

「…………なんで?」

「え?」

「………………」

「麻衣子?」

「……………………」


ーーーそれから、私はお父さんとは一言も話さずに部屋へ戻った。

そしてベッドに横になり、ただぼんやり天井を見つめる。

裏切られたと思った。

お父さんは裏切ったんだ。

私を、……お母さんを。


どうして?

どうして再婚なんてしようと思ったの?

どうしてお母さん以外の人を好きになるの?

どうして私以外の家族を迎えようとしているの?

どうして?どうして?


「……どうして?私……私は……」


涙が止まらない。

苦しくて、悲しくて、悔しくて……

そして………


結局、泣きつかれて眠るまで、その夜は涙を流し続けていた。
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