僕は君に夏をあげたかった。
誰ともほとんど話すことなく学校を終え、重い気持ちで家に帰ると、迎えてくれるのは顔も見たくない人。


「お帰りなさい、麻衣ちゃん」

「……」


玄関まで出てきたあずささんを無視して、自室へと向かう。

一人にしてほしいのに、あずささんはついてきて話しかけてきた。


「あ、お、おやつあるわよ。麻衣ちゃんシュークリームが好きだってきいて買ってきたの……」

「いらない」

「……そ、そう。友達と何か食べてきたのかしら?」

「関係ないでしょ」


友達なんて、いないし。


わざとバンッと大きな音を立ててドアをしめると、その向こうからあずささんのため息が聞こえてきた。


(…なによ、傷ついたふりしないでよ)


嫌なのはこっちの方よ。

あんたさえ来なければ、お父さんと2人で上手くやっていたのに。

いい人ぶって、母親ぶって、私にこびを売ってきて

ーーー馬鹿みたい。


「…きらい。あんな人」


そうつぶやくと、心がますます重くなる。

私は机に飾っているお母さんの写真を抱き締め、そのままベッドにもぐりこんだ。
< 57 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop