僕は君に夏をあげたかった。
美術の時間だった。

2人組を作り、互いの似顔絵を描き合う課題。

めいめい友達とペアを作る中、私は当然あぶれ、普段3人グループの女子の1人と組むことになった。


「よろしくなー、松岡さん。なあなあ、松岡さんって絵、得意?」


彼女……田中さんはとてもよくしゃべる人。

クラスでも色々な人と話しているし、こうしてクラスで浮いている私にも話しかけてくれている。

全く会話がないよりは良かった。

田中さんとぎこちなくも言葉を交わしながら、内心ちょっとホッとして、筆を走らせた。


「……絵は、好きなの。中学のときも美術部だったし」

「え、そうなん!じゃあ、うちの美術部入らへんの?」

「……えーと……」

「わたし、美術部やねん。部員少ないから、来てくれると嬉しいなーなんて」

「………え」


思わず手をとめ、田中さんの顔を見る。

ニコニコと人好きのする笑顔を浮かべていた。


……社交辞令、かな。

それとも本気でそう言ってくれているのかな。


胸がドキドキしている。

もし、本心でそう言ってくれているとしたら…

私……美術部に入りたい。


学校に馴染めなくて、美術部も敬遠してしまっているけれど

友達がほしくないわけじゃない。

美術部が嫌いになったわけじゃない。


本当は私だって………


「あの……美術部……その……私……」

「ん、いけそう?見学に来る?」

「………あ、その…えーと…ちょっと考えてもいいかな」


どうしても上手く素直になれなくてそう答える。

田中さんは関西なまりのイントネーションで『わかった』とうなずいてくれた。
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