僕は君に夏をあげたかった。
「………あ、ちょっと」


田中さんが私の気配に気づいたのか、立ち止まり振り向く。

私を見た途端、それまでの笑い声は消え、田中さんたち3人は気まずそうに顔を見合わせた。


「松岡さん……」

「…………」

「あ、あんな今のは……」

「………キモくて悪かったね」

「ちゃ、ちゃうねんて!松岡さんがキモいんやなくて、わたしらが東京弁使ったらキモいっていうか……」

「同じじゃん。私の話し方、ずっとそうやってバカにしてたんでしょ」


今まで、あれだけ学校で上手く話せなかったのに。

ビックリするくらいポンポンと言葉が出てくる。

もっとも、頭の中は真っ白だ。

恥ずかしいやら、腹が立つやら、悔しいやら

複雑な気持ちが駆け巡り、まともに考えることができない。


「……ごめん。嫌な思いさせたなら謝る。せやけど、バカにしてたわけやないねん」


田中さんが謝り、他の子もすまなさそうに頭を下げた。

でも私の怒りは余計に強くなる。

どうしてそんな顔するの。そうやって謝るの。

そんな風にされたら、私が悪者みたいじゃない。


重なるのは、いつも悲しそうに目を伏せるあずささん。

私が悪いの?

私があなたを傷つけているといいたいの?


「………やめてよ。こんなのバカみたい!
それに私……大阪弁って嫌いなの。もう話しかけないで!」


頭に血がのぼるに任せて、気づけばそう叫んでいた。

田中さんたちの顔が悲しげにゆがむ。
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