僕は君に夏をあげたかった。
私たちの間に気まずい沈黙が流れた。

もうだれも何も話さない。

やがて

「……やっぱ東京弁キッツ」

田中さんの友達が吐き捨てるようにそう言って、私をにらみつけた。

それは完全に敵を見る目で、私は自分のしてしまったことを思い知らされる。

私は……クラスにハッキリと敵を作ってしまったのだ。


「………っ」


そのまま全力で走り去り、逃げるように学校を飛び出した。

胸が苦しくて、頭がガンガン痛む。

どうして

どうしてあんなことを言ってしまったのか。

どうしてこうなってしまったのか。

嬉しかったのに。美術部に誘ってもらえて。

本当に嬉しかったのに。

やっと学校が少しは楽しくなるかと思ったのに。


「……うっ……うう……」


涙をぬぐいながら走って、家につく。

帰ってきたくなんかなかったけど、他に行くところはない。

(…これが東京なら、カオリの家に行ったりできたのに)

そう思うと、また泣けてきた。


「………」


特に何も言わず、家に入る。

すると、玄関にはもうお父さんの靴があった。

いつももっともっと遅いのに。

リビングからは談笑する声が聞こえる。


私は靴をぬぎ、家の中へ入った。

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