僕は君に夏をあげたかった。
「お帰り、麻衣子」

リビングのソファーに座ったお父さんが、私を迎えてくれた。


「お父さん……もう仕事終わったの?」

「ああ。ずっと抱えていた大きい案件が終わってね。今日は早く帰らせてもらったよ。
…最近、あまり麻衣子と話せていないしな。ゆっくり時間を取りたかったんだ」

「…………お父さん」


渇いた涙がまた溢れてきそう。


「高校はどうだ、麻衣子。今日は遅かったんだな」

「………うん。あ、あのね、お父さん……今日……」


「ーーーお帰りなさい、麻衣ちゃん」


私の声にかぶさる穏やかな声。

そしてふわりといい匂い。

大きなお鍋を持って、あずささんがキッチンから出てきた。


「今日は遅かったのね。お友達と遊んでいたの?」

「……別に。あんたに関係ないし」

「麻衣子…っ!
……まあ、いい。今日は3人でゆっくり食事をしながら話をしよう。
あずささんが、お前の好きなロールキャベツを作ってくれたよ」

「上手く出来たかわからないけれど、優一さんからレシピを教えてもらったの。きっと、麻衣ちゃんがいつも食べている味に近づいたと思うわ」


あずささんはそう言ってテーブルに鍋を置く。 

ふたをあけると温かい湯気と、美味しそうな匂い。

中にはトマトベースのスープで煮込まれたロールキャベツが入っていた。


「さあ、麻衣ちゃん。着替えて手を洗ってきて。ご飯にしましょう」           

「………」
< 63 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop