僕は君に夏をあげたかった。
「……ま、麻衣ちゃん」

「なにが私の好きなロールキャベツよ!私のレシピよ!
これはね、お母さんがいつも作ってくれていたロールキャベツなの!あずささんなんかに作れるわけないでしょ!

しかもそれをどうしてあんたの誕生日に出すのよ!自分がお母さんにでもなったつもりなの?

家族で食事!?ふざけないで!あんたなんて家族じゃない!私は……私たちはずっと2人で生きてきたの!新しい家族なんていらない。あんたなんてお母さんでもなんでもない」

「……麻衣ちゃん」


あずささんが口に手をやり、小さく震え出す。

その瞳には悲しみの色がありありと映り、私は彼女を深く傷つけていることに少し苦しくなった。

でも、それでも沸き上がるいら立ちは止められない。


今日、学校であったトラブル。

友達と離れ、遠く離れた土地にやってきて、そこで馴染めずにいること。

何より、かけがえないお父さんとの世界に、知らない人が割り込んできたこと。

私の大切な居場所が壊される、奪われる、なくなってしまう。

そんな……耐えきれないほどの孤独と悲しみ。


今まで積もりに積もった悲しみが、苦しみが、行き場を失い爆発する。

それがあずささんへ向かっていくのを、止めることができなかった。


「…出ていってよ!あんたなんかいらないんだから!突然出てきて、家族面して、私の大切な家族をめちゃくちゃにして!
あんたなんか嫌い。家族なんかじゃない。一緒にいたくない!
出ていって!出ていけーーーー」

「麻衣子!」


パンッと乾いた音が鼓膜をうつ。

頬が熱く痛んだ。
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