僕は君に夏をあげたかった。


なにが起こったのか一瞬わからなかった。

ただ目の前には、お父さんが右手をあげて立っていた。

お父さんは絞り出すような声で『いい加減にしなさい』とつぶやいた。


(……叩かれた……お父さんに。お父さんが……私を……私を……)


口数はあまり多くないけど、穏やかで優しいお父さん。

叱られたことはあっても、お父さんに手をあげられたことはなかった。


それが……


「ぅわあっ……わあああっ……んっ。あああ…………ああああっ!」


お父さんが私を叩いた。

その意味を理解したとき、両目から一気に涙が溢れだし、私は子供みたいに声をあげて泣いた。
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