僕は君に夏をあげたかった。
「……麻衣子、和歌山のおじいちゃんを覚えているか?」

「え、う、うん……まあ。小さいとき遊びに行ったし……」


どうして今おじいちゃんの話になるんだろう。

疑問に思いながらもうなずくと、お父さんは更にびっくりする内容を告げた。


「実はな、大阪に引っ越してくるとき、おじいさんに連絡をしたんだよ。大阪と和歌山なら近いし、おじいさんは麻衣子のことを気にかけてくれていたから。
おじいさん、いつか和歌山に遊びに来いって行ってくれていた」

「……そ。そう……」

「………なあ、麻衣子。しばらくおじいさんの家で暮らしてみないか?」

「……え。私…が?」

「ああ。
父さんはな、麻衣子とあずささんに仲良くしてほしいし、いつかきっと仲良くなれると信じている。

でも、麻衣子の気持ちを考えず、急ぎすぎたとも反省しているんだ」

「……………」

「だからな、麻衣子。一度、お互いに距離をおいて、ゆっくり考えてみないか。学校も、あまり上手くいっていないんだろう……。幸いもうすぐ夏休みだ。少し早い夏休みと思って、学校ともこの家とも離れて、ゆっくり考える時間を作ってみたらどうだろう」

「………お、とうさん」

「おじいさんの田舎は、自然が多くて、とても美しいところだと聞いているよ。そんな場所でなら、きっとお前の心も落ち着いていく……父さんはそう思っているんだ」

「…………それって」


それって、私をこの家から追い出すということ?

きれいごとを言っているけど、お父さんは結局私を邪魔だと思っているんじゃないか。

だから、あずささんをここに残して、私を出ていかせようとしているんだ。
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