僕は君に夏をあげたかった。
私はまた赤さびの手すりにつかまり、今度は階段をおりる。

一歩、また一歩。砂浜を目指して。


のぼりよりはスムーズに進み、すぐに私の足は白く細かい砂の上に降り立った。

ずっ…と足が沈む感覚。

あまりに細かい砂は、私の体重で簡単に形を変える。


「……わ、とと……」


砂浜なんて歩きなれていないので、足をとられ転びそうになってしまう。

細く高いヒールの、バランスを取りにくいサンダルをはいていることも良くないみたいだ。

仕方ない。

私はサンダルを脱ぎ、裸足で歩いて行くことにした。


「……熱い……」


たちまち温められた砂浜の熱が足の裏に伝わる。

それは想像以上で、じんと痛いくらいだった。


じっとしていると足が焼けてしまいそう。

サンダルを左手に持ち、早足で海の方へと向かった。


近づくごと、波の音が大きくなる。

一見、規則正しく思えるそれは、実はランダムに強弱をつけ、不規則なメロディを響かせる。

誰もいない砂浜では、そのメロディが唯一の話し声のように思えた。


海が近くなるにつれ、足元は白い砂から貝殻の混じった黒い石へと変わっていく。

焼けるような熱さも段々無くなってきた。


そして、足に寄せる波がかかるくらい海のそばに来たとき。


私は遠く離れた防波堤に、人が座っているのを見つけた。
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