僕は君に夏をあげたかった。
のこされたもの
「………私はお父さんから見捨てられたの」
佐久良くんに支えられ、昔話を終えた私はふと息をつく。
いつの間にか涙はおさまり、代わりに頬の辺りが乾燥したようにパリパリしていた。
「……私、あの人のこと好きになれない。家族だなんて思えない……。
高校だって嫌い。ちょっとした言葉の違いで笑い者にしてくるクラスメイトなんて……友達になりたくない」
「……松岡さん」
「でも、お父さんは私をこうして見捨ててしまった。それって、私が間違っていたからなのかな」
「………」
佐久良くんは私をなぐさめるように、優しく背中をポンポンと叩いてくれる。
そのてのひらは温かく、ささくれだった心がちょっぴり丸くなったように思えた。
みゃあ、とシジミがか細い声をあげる。
それを合図にするかのように、黙っていた佐久良くんが口を開いた。
「……お父さんは、君を見捨ててなんかいないと思うよ」
「………」
「君のこと、きっと大切に思っている」
「じゃあ、どうして再婚したの……。どうして他の女の人を新しい家族にしようとしたの」
「それは……幸せになるためじゃないのかな」
「幸せ?わ、私はちっとも幸せじゃない。再婚してから上手くいかないことばかり。
私は……私はお父さんと2人でいたときが幸せだったの。お父さんと支えあって、それで充分だった。
それをあの人が壊したの。あの人が来てから、家でも学校でも嫌なことばかりで、私は一人になってしまった」
佐久良くんが私からそっと身体を離す。
そして目を伏せ、かぶりを振った。
「……それは松岡さんの思い込みじゃないかな」
「え」
「本当に……新しいお母さんができたから、全部うまくいかなくなったの?」
「……そ、そうよ。だって……だって……」
「逆じゃないか?
松岡さん、上手くいかないことを、全部再婚のせいにしてるんじゃないのか」