僕は君に夏をあげたかった。
その夜
シジミと一緒に布団に入って眠った。
身体を丸くして眠るシジミをカーテンからもれ入る月光が淡く照らし、毛並みが青白く光って見えた。
それはとてもきれいで、同時にどきりとするくらい儚い光景。
…なぜか佐久良くんを思い浮かんだ。
「……シジミ」
私はシジミの名を呼びながら、夢の中にいる様子のその背中を撫でた。
赤い首輪が月明かりに少し青白く染まる。
「……ねえ、シジミ。この首輪って、飼い主の本屋さんにもらったものなの?」
当然だけど、シジミからの回答はない。
それでも私は話しかけ続けた。
「シジミは、その飼い主さんが今でも一番大切なんだよね。だから、みんながごはんをくれても、誰の飼い猫にもならないんでしょう…?
シジミの家族は……飼い主さんただ一人なんだよね。その人が死んでも変わらないんだよね」
シジミに私の声は聞こえているのだろうか。
呼吸に合わせ、規則正しくお腹のあたりが動いているので、完全に眠りに落ちているのかもしれない。
でもその確かな息づかいが、シジミがここにいることを実感させてくれ、意思の疎通なんて出来なくても充分心強かった。
「……シジミはいいな。お父さんもシジミみたいだったら良かったのに。お母さんが死んでからも、ずっと、お母さんだけを……好きでいてくれたら良かったのに……」
最後の方はほとんど一人言。
「どうして変わってしまうの?変わらないでほしかった。お母さんのことを好きなお父さんのままで、そんなお父さんと一緒に、お母さんの思い出を大事にしていたかった……。ずっと…ずっと……」
やがて疲れて寝入ってしまった私は、とても温かい、きれいな光に寄りそわれて眠っている夢を見た。