僕は君に夏をあげたかった。
次の日の朝、目覚めは穏やかだった。
部屋に差し込んだ朝の光にまぶたを刺激され、ゆっくり目を開ける。
明るく白い光に部屋は満ち、ちょっとだけ神々しく見える。
時計は8時をすぎたところ。
どちらかと言えば寝坊ぎみ。
いつもより深く眠れたのか、頭がスッキリしていた。
「……んー、よく寝た」
こんなに気持ちいい目覚めはシジミのおかげだろうか。
あの温もりがそばにあったからゆっくり眠れたのかな。
そう思い、昨夜シジミが丸くなっていた場所に目をむけるが、そこにシジミの姿はなかった。
「……え」
布団の中。
シジミがいるはずのところに、ぽつんと赤い首輪だけが残されていた。
「……シジミ!?」
慌てて部屋を見回すが、シジミは影も形もない。
「どうして…っ…」
昨日は確かにいたのに。
私に会いにきてくれていたのに。
一緒にいたのに。
どうしてどこにもいないの?
猫は気まぐれな生き物だし、シジミは家を持たない野良猫のようなものだ。
だから今も気まぐれにこの家を出ていったのかもしれない。
だけど、それならどうして首輪だけが残されているのか。
私に会いにきてくれたシジミ。
そばにいて話を聞いてくれた。
そして、朝になるとこつぜんと姿を消して
あの、赤い首輪だけが残っている。
胸騒ぎがする。
シジミはどこにいるんだろう。
今、なにをしているんだろう。
不安でたまらない。
「……シジミ……!」
私は簡単に支度をすませると、首輪を持って家を飛び出した。