僕は君に夏をあげたかった。
そして、たどり着いたのは海。

朝も早い時間だというのに、砂浜ではもう子供たちが遊んでいる。

そんな彼らの中にまぎれこんでいないかと探していくも、やっぱりここにもシジミはいなかった。


「……シジミ……。どこにいるの。お願い、出てきて……姿を見せて……」


泣きそうになりながらつぶやく。

すると、その声にこたえるかのように堤防から1つの影が降りてきた。


「………あ………」


影の主は、私の姿を見つけると小さく声をあげ『松岡さん』と名を呼んだ。

そう、それはシジミではない。


「……佐久良くん」

「おはよう、松岡さん。どうしたの?すごく顔色が悪い。体調がよくないの…?」


昨日の言い争いなどなかったかのように普段と変わらない風に話しかけてくれる佐久良くん。

見つかったのはシジミではないのに、私はひどく安心したのを感じた。


「……さ、佐久良くん……佐久良くん…っ!」


気づけば、これまでの不安が嗚咽になって溢れだしていた。

佐久良くんはびっくりしたように私に駆け寄ってくる。


「松岡さん…!?本当にどうしたの。何かあった?」

「し、シジミが……シジミがいないのっ!昨日、私とずっと一緒にいてくれたのに、朝になったら首輪を残していなくなっていて」


私はシジミの赤い首輪を佐久良くんに見せる。

佐久良くんの表情が一気に曇った。
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