僕は君に夏をあげたかった。
「……それは、きっと……松岡さんが似ていたからじゃないのかな」


佐久良くんがシジミの首輪にそっと手を触れてつぶやく。


「……似ていた……?」

「そうだよ。シジミはたった一人の飼い主をずっと思い続けていた。他の人がシジミのことを家族にしようとしても、それを受け入れなかった。
それは少し……松岡さんに似ているんじゃないかな」

「………」

「もしかしたら、この首輪はシジミからの最後のメッセージかもしれないな」


シジミ……。


「……っ、うっ……」


目から一気に涙が流れ落ちた。

嗚咽がもれ、ひっくひっくとしゃくりあげる。


「……松岡さん、そんなに泣かないで」

「だ、…だって、私……シジミが最後のときに、最後に私に会いにきてくれたのに、自分のことしか考えてなかった。

自分がどれだけつらいかとか、回りが私をわかってくれないとか、そんなことばっかり言ってて……。シジミのこと、ちっともわかってあげてなかった。

最後なのに、最後だったのに……もっともっと優しくしてあげたかった。シジミに、幸せな思い出をあげたかったよ……!」


最後が近い体で、この暑い中、私のところまで来るのはどれだけ大変だっただろう。

どれだけ体がつらかっただろう。

私はもっといたわってあげるべきだった。

もっと大切にしてあげればよかった。
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