僕は君に夏をあげたかった。
「……さ、佐久良くん……」

「うん…」

「……わ、私……私……」

「うん」

「…………ありがとう………」


佐久良くんは何も言わない。

ただ、私の頭を優しく撫で続けてくれた。

あたたかくて、優しくて、とても安心する。

心がほぐれていくみたいだった。


……そうだ。私……

きっと、ずっとこうしてもらいたかった。

本当はこわかったの。

友達の全くいないところに引っ越すのも

急に知らない人が家族になって、お母さんや私の居場所がお父さんの中から薄れていくのも

私の言葉を笑うクラスメイトも

それに……

あずささんにひどいことばかり言って傷つける自分のことも


こわくて、こわくて、誰かに支えて欲しかった。

ううん。
このこわさをわかって欲しかった。

でもお父さんも、周りの友達も、私にしっかりしろって、頑張れない私が悪いんだって言うから

私はますますこわくなって

もう逃げるしかなくなっていたんだ。
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