僕は君に夏をあげたかった。
「……佐久良くん」


佐久良くんの胸にトンともたれかかる。

彼の鼓動を感じる。

それは思っていたよりも、ずっと速かった。


「本当に……守ってくれる?」

「………うん」

「だったら、私は……きっと頑張れる。ふしぎだね。佐久良くんが居てくれると思うと、こわいのが少しずつ消えていくの」

「松岡さん……」

「でも、どうして……。佐久良くんはどうしていつもそんなに優しいの………?」


佐久良くんは何も答えず、私を抱き寄せた。

私の身体は彼にすっぽりと包まれる。


佐久良くんの体温。

心臓の音。

洗いたてのシャツの匂いに、少しだけ変わった匂いが混ざっている。


そんな彼の全てに安らぎを覚えると同時に、胸が甘く苦しくなった。


私は、この人のことを……

中学のとき好きだった初恋の人を、今でもやっぱり……



「ーー理由は前も言ったと思うけど」


ぽそっとささやかれた佐久良くんの声に、私は顔をあげて彼を見る。

佐久良くんの顔は、心なしか赤く染まっていた。


「俺が君に優しくする理由。……俺は、中学のとき、ずっと松岡さんのことをいいなと思っていた。

……好きだったんだ」

「……っ、え……」

「それで……今でも変わらない。というか、変わらないって気がついた。俺は、今でも君が好きだよ」
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