僕は君に夏をあげたかった。
青海祭りの日。
もちろん私は朝から佐久良くんを探しに町に出た。
でもやっぱり会えなくて、不安と絶望だけがつのっていく。
そんな私の気持ちとは裏腹に、町は祭りの準備でにぎやかで、みんな忙しそうに、だけども楽しそうに作業をしていた。
(……本当だったら、佐久良くんと一緒に行くはずだったらのに)
浮かれた雰囲気の町中にいるのがつらくて、私はいつもより早くおじいちゃんの家に戻って閉じこもった。
***
「麻衣ちゃん、ほいだらワシは、祭りの手伝いがあるから出かけるで。
ホンマに浴衣着やへんのやな?祭り、行ったらええのに」
夜。
早めに軽い夕食を食べたあと、ハッピのような服を着たおじいちゃんが何度も私に聞いてくる。
もちろん私の返事はNO。
佐久良くんがいないのに祭りも浴衣も必要ない。
やたらと祭りを勧めるおじいちゃんを送り出して、あとは部屋でだらしなく寝転んでテレビを見ていた。
テレビの内容に全く興味はわかない。
それでも静かな部屋に一人でいるよりはよっぽどマシだ。
海が近いせいか、この家まで祭りの音が聞こえてきて、うっとうしくて仕方ないのだ。
楽しみだったお祭りなのに…
佐久良くんがいないと、世界は全く色を変える。
今はもうきれいな色などどこにもない。
「……佐久良くん……」
無意識に彼の名前をつぶやく。
そのときだった。
ピンポーンと、呼び鈴の音が響く。
「……!」
私は思わず身体を起こした。