僕は君に夏をあげたかった。



それから2人で手を繋いで、海でのお祭りへ向かった。

佐久良くんの手は、あったかいというより熱い。

……熱があるんじゃ、と心配になったが、当の佐久良くんは気温が高いからだと明るく笑う。

臆病な私は、そう言われてしまうと、もう何も聞けなかった。

本当のことを知るのが恐いのかもしれない。


花火が始まるまでは少し時間があったので、屋台を見てまわった。

たこ焼きやかき氷を食べて、金魚すくいをした。

金魚をすくうポイが和紙ではなくもなかで出来ていて、全くすくえなかった。

一方、佐久良くんはとても上手で、何匹もすくっていた。

でも金魚を連れて帰るのは断っていた。

『面倒をみることが出来ないから』と言って…。


賑やかな屋台。ちょうちんのあかり。食べ物のにおい。きれいなガラス細工。

となりで笑っている佐久良くん。

すごく楽しくて、幸せなのに

なぜか不安で寂しい。

まるではじめから終わることがわかっている、夏休みみたいに。

私はこの幸せが終わってしまうことばかりを考えている。

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