僕は君に夏をあげたかった。
そして花火の時間になり、海へと移動する。

砂浜には見たことないくらいたくさんの人が集まっていた。

(…この町って、こんなにたくさんの人がいるのか。意外だ…)

なんて、少し失礼なことを思ってしまっていた。


「……松岡さん、こっち」


佐久良くんが私の手を引いて、すいているところへ案内してくれる。

磯の近くの、少し影になっているけれど、この分人が少ない場所に私たちは座った。


「いい場所があいていて良かった」

「あと5分くらいで始まるね」

「花火楽しみだな。実物を見るのはすごく久しぶりだ」

「私も」

「………」

「………」


一瞬の沈黙。

会話のなくなった私たちに、周りの雑音が大きく聞こえた。

ざわざわとした会話の声。

波の寄せる音。

遠い祭ばやし。


すべての音が私と佐久良くんを包み込む。


「……………松岡さん、ごめん」

「え……」

「ずっと連絡しなくて……なんの説明もしなくて……不安になったよな」

「……まあ、そりゃあ……」

「ごめん。松岡さんに、きちんと話さないといけないと思いながら……できなかった」

「……どうして?」

「こわかったんだ。現実を思いしらされるのが。君の前では、中学の時の、少し身体が弱いけれど、普通に元気な俺でいたかった」

「……げんじつ」
< 96 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop