僕は君に夏をあげたかった。
ひゅー……と、花火が空にのぼっていく音が聞こえた。


「ーーー俺、この町の病院に入院しているんだ。

ただの入院じゃない。

きっと、もう助からないから、ここで死ぬのを待っている」


ーーーードン…!


大きな音をたて、夜空に大輪の花が咲いた。

さまざまな色をまとった、瞬間の火花。

わあ、と周りで歓声があがる。

佐久良くんの横顔が色とりどりの光に照らされ、闇に浮かび上がる。

そこにいつもの笑顔は浮かんでいなかった。


「……え、死………え?」

「ごめん、ずっと言えなかった……」

「やめて………っ、そんな風に謝らないで……!死ぬって何?どうして……っ、な、治らないの?」

「……俺……生まれつき持病があってさ、長生き出来ないと言われてた。それでも中学の途中までは割と普通に暮らせていたんだけど、……突然、病気が悪化して、治療のために引っ越しをしたんだ」

「引っ越し……。もしかして、中学のときの転校……?」


佐久良くんがうなずいた。


「そう。専門の病院で治療するために、その近くに引っ越して、転校した。もっとも転校といっても、入院ばかりで学校にはほとんど行けなかったけれど」


クスッ…とひどく自嘲めいた笑いが、佐久良くんの口からもれた。

何を答えてあげればいいかわからず、私は黙って彼の話を聞く。

ショックで……頭がついていかないのかもしれない。


夜空には次々と花火があがっていく。

赤、黄、青、紫。

夜空がこれほど美しく輝いているのに、私にはその光が全く心まで届かない。
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