もしも君が隣にいたら。
「例えばだよ」
彼は唐突に話し出した。
「例えば地球が、本当は赤かったら?」
彼は何をいってるんだろう。
地球は青い。
空が青い。海が青い。
だから地球も青い。
あれ?なんでだ?
「人の記憶に刷り込まれた"固定概念"は、案外頑固にこびりつくもんだ」
「……」
否定も出来ず、訳も分からず、彼の声を耳に集めた。
「例えば、太ってる人の子供が太るのは、もちろん遺伝もあるだろうがそれだけじゃない。太る生活をしてる人間に生き方を教われば、それは太る生活になるに決まってる。」
あぁ、なるほどな。
案外すんなり納得した自分。
ってそうじゃないでしょ。
なんでこんな話になってるんだっけ。
「お姉さん。全部顔に出るね」
こっちを向いて笑った。
笑ったその顔が、綺麗だと思った。
顔立ちが整ってるとかそれとは違う、綺麗。
「でね」
彼はまた前を向いた。海を見た。
いや空だったかもしれない。
地平線の方へ目を向けた。
「例えばだよ」
彼のひとつひとつの動きが気になる。
あ、前髪が揺れたな。とか。
「例えば自分の」
近くの石を拾って投げたりとか。
「自分の記憶が消えたらどうする?」
「……え?」