結婚も2度目だからこそ!
――それから一週間後……。
「京香、起きなさい!派遣なんだから、初日に遅れたら切られちゃうわよ!!」
ドアの向こうからそう母の声が聞こえて、ハッと目を覚ます。
時計を見たら時間は7時を回ろうとしていた。
私は慌ててベッドから飛び起きた。
圭悟の浮気目撃後、その日はビジネスホテルに泊まったものの、それ以降は実家に戻って暮らしている。
ひとり暮らしする事も考えたけど、やっぱりひとりになるのは少し苦しくて、口うるさい両親がいても人がいる方が、今の自分にはいいんだと、そう思って実家に戻る事にした。
離婚した理由が理由なだけに、両親も最初は腫物に障るように優しかったけど、やはりそこは血の繋がった家族。
時が少し経ったら、そんなことお構いなしに口うるさい両親に戻った。
まあ、いつまでも気を遣われるより、その方が思い出すこともなくていいんだけど。
こうやって実家で生活するのも、高校卒業して以来。
大学からずっとひとり暮らしをしてきて、ひとりで気ままに過ごすのも気は楽ではあったけど、家に人のいる生活も悪くはない。
ドアを開ければ朝食のいい香りがして、テレビの音が漏れ聞こえる。
リビングに行けばテーブルには既に父が座っていて、目線は新聞紙に落としたまま『おはよう』と言って、コーヒーを飲んでいる。
何気ない、平和な家族の一日の始まり。
ちょっと前までは私もこんな家族を作るんだ、なんて淡い夢を抱いていたはずなのにね。
「おはようお母さん!起こしてくれて助かったよ~。遅刻したら目も当てられないもの」
「今までだらだらと過ごしてきたからよ。今日から少し身を引きしめて生活しないと」
「はーい。心がけまーす」
椅子に座って手を前に合わせた後、用意されていた朝食を急いで食べた。
それから化粧して、髪を梳かして、スーツに身を包んで。
退職してから使うことのなかった仕事用のバッグを久し振りに肩にかけて、前日にちゃんと磨いた皮のパンプスを履いて、家を出る。
外は雲一つない快晴だった。
朝日の眩しさに思わず目を細めながら、空を見上げる。
今はまだ私の心の中はうす曇りの状態。
いつかはこの空のように、スッキリと吹っ切れることが出来るんだろうか。
「……今はそんなこと、考えても仕方ないよね」
空を見ながら、そう呟く。
そんな先のこと、誰も分からないもの。
でもきっと、そんな日が来るはず。
今はただ、心に負った傷を癒していこう。
いつかはそんな思い出も笑って話せるように。
そんなことがあったなんて、忘れてしまえるくらいに。
――その日が来るように、ゆっくりと……。