結婚も2度目だからこそ!
目的のビルに着いた。
私は着くなり、入り口前で立ち止まって、大きく深呼吸をしてから自動ドアを潜る。

中は食品メーカーだけあって、壁には自社製品を持ちにこやかに笑う女優さんのポスターや、受付横にはイメージキャラクターの特大人形が置かれていて、少しテンションが上がってしまった。

今までは零細企業の小さなビルで殺風景なオフィスだったから、目新しいのもあったのだろう。

受付の女性も綺麗な人ばかりで、さすが大企業といった感じだった。

私は緊張しながらもそのひとりに声をかけ、案内してもらう。


エレベーターは、外の景色が見られるようになっていて明るく、閉塞感が感じられない。
そして窓も手垢ひとつなく透き通っていて、廊下だってゴミひとつ落ちていない。

通り過ぎる社員の人たちも、ビシッとスーツが決まっていて、変に感動してしまった。

さすが大企業。
二回目だけど、これしか感想が出ない。

ここでこれから働くことになるのか、そう思うと自然と身が引き締まった。



受付の女性は、ある部屋の扉の前で立ち止まると、ノックをした。
それに応えるように、扉の向こうから「入って」と声が聞こえる。


「潮崎課長、今日から派遣される鳴嶋さん、お連れしました」

「ああ、ありがとう。――初めまして、企画課課長の潮崎です。今日からよろしく」


それほど広くない部屋に机と椅子がひとつ。
壁には本棚があって食品関係の本が綺麗に並べられている。


その机の前で立ち、笑顔で迎えてくれたのは四十代半ばくらいの渋い男性。

艶やかな黒髪をオールバックにし、少し細目の一重。皺ひとつないスーツが、余計に渋さを際立たせている。
そして優しそうな笑み。

大人の色気を醸し出すその姿に、ドキリと胸が鳴る。

「は、初めまして。鳴嶋京子と申します。これからよろしくお願いします」

そう話す声が緊張で、少し震えた。
そんな私に潮崎課長は声を出して笑う。


「鳴嶋さん緊張してる?ハハ、そんなに緊張する必要はないよ、リラックスして。じゃあ早速だけど、君がこれから働く場所に案内しよう。ついておいで」
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