結婚も2度目だからこそ!
"吉岡智樹"
その名前を聞いた瞬間に、忘れていた昔の記憶の扉が開いた。
――そうだ。
高校の時だ。
その名を初めて知ったのは吹奏楽部の部活紹介。
吉岡先輩が壇上に上がった時、周りの女子が甲高い声で騒いでいたのを覚えている。
先輩はトランペットで演奏に合わせて、私たち新入生の前でとびっきりのソロを披露してたっけ。
キラキラと輝くトランペットの音色に加えて、先輩のさらっとした艶やかな髪が吹くのに合わせて揺れる。
吹き終わったあと、それはもう爽やかな笑顔で一礼をして――……。
彼に魅了されて、その年の吹奏楽部の新入部員がやたらと多かった。
もちろん私もその中のひとり。
でも私はクラリネットだったし、一年生では大会のメンバーに選ばれることはなくて……。
先輩はいつもいろんな人に囲まれてて碌に話すこともできず、結局そのまま先輩は引退した。
憧れの存在。
だけど、近いようで遠い、住む世界が違う人だった。
そんな人が今、私の目の前にいる。
あんなに憧れていたのに、すっかり忘れてしまっていたなんて……。
「……吉岡先輩」
「おお、そうだよ、吉岡先輩だよ。ようやく思い出してくれたか」
吉岡先輩は、そう言うと安心したように笑みを零した。
その笑みに思わず胸が高鳴る。
と同時に、申し訳なさが一気に襲ってきた。
ほとんど話すこともなかったただの後輩の私を、先輩はずっと覚えていてくれた。
なのに私ったら、すっかり記憶の彼方に置き忘れてしまっていたなんて。