結婚も2度目だからこそ!
「――京香ちゃん?」

戸惑うような先輩の声に、我に返る。
無意識にしてしまったことに気付き、慌てて私は先輩の手を放した。

「わ、わああ!ごめんなさい!!」

な、何をやっているの、私は!
優しくされたからって、こんな積極的なこと!


恥ずかしくてその場から逃げたい衝動に駆られる。
気持ちを静めようと、「トイレに!」と言って立ち上がろうとした時、腕を掴まれた。

「……え?」

「もしかして、人の温もりが恋しくなった?」


先輩はそう言って、怪しげな笑みを浮かべて私を見上げた。


ドキリと心臓が大きく跳ねる。

まさか先輩に言われるなんて。
確かにひとりになって寂しいと思う時はある。

けど、先輩にそう言われるくらい、私は人の温もりに飢えているように見えていたなんて。


どうしたらいいか分からず、目を逸らして俯いた。


「……ハハッ、冗談」

解放される腕。
捕まれた部分が熱く火照る。

先輩は無くなったワインを頼もうと、片手を店員に向けて上げた。

「トイレ、行ってきなよ。京香ちゃんの分も飲み物頼んどくからさ」

先程までの怪しい笑みはどこへやら、優しい笑みを浮かべて私を見上げている。
こくこくと頭を上下させ、私はその場を去った。


どくどく、と心臓の激しい鼓動は鳴りやまない。
それどころか身体全体が熱く火照って、どうしようもなかった。


初めて見た、先輩の"男の顔"。

今の私には刺激が強すぎる。

先輩は私を元気付けさせようとしているだけなのに。
こんなんじゃ私は……。



結局その後もずっと気持ちが落ち着くことはなく、先輩の話どころかほとんどその夜の記憶がない状態で。
気がついたら自分の部屋のベッドで横たわっていて、既に朝を迎えていた。


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