結婚も2度目だからこそ!
「準備出来た?」

扉の向こうから先輩の声が聞こえ、ハッと我に返り返事をした。
私の返事を受けて、先輩は扉を開け、私をリビングに来るよう促す。

リビングにはコーヒーの爽やかな香りが漂っていた。
締め切っていたカーテンは開かれ、朝の日差しが部屋を明るく照らしている。

「飲んで待ってて。風呂はもう少しで溜まると思う。溜まったら先に入るといいよ」

「あ、ありがとうございます……」

先輩はコーヒーを飲みながら、テレビのニュースを読み上げる声に耳を傾け、キッチンに立っていた。
フライパンで何かを焼く音。コーヒーの香りに混じって、食欲をそそる匂いが漂う。


懐かしいと思った。
それは結婚していた頃と、同じ香りだった。

朝、少し早めに起き、そして圭悟の為に、コーヒーメーカーをセットして、香ばしい匂いが漂う中朝食の準備をする。

やがて少し遅れて圭悟が寝ぼけた声で「おはよう」と言いながら起きて来て、テレビをつけると、テレビの音で一気にリビングが賑やかになる。



一日の朝の始まり。
今日もいつもと変わらない一日が始まる。


その時と同じ匂い。
その時と同じ音。


だけど、今は目の前にいる人だけが、違う。



ふと、胸がギュッと締め付けられるように苦しくなった。


確かにあの頃は幸せだった。
迷うことなく、幸せだった。



――そして、今も。




なのに、どうして……。



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